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時の物語(易経短編小説集・近日中に出版予定)26

二十五.運命に順う時

 運命には立命と宿命がある。立命は自力で切り開ける運命だが、宿命は天が定めた運命なので素直に順うしかない。天が定めた宿命に素直に順えば、自ずと時が変わって立命の時がやってくる。立命の時を全うすれば天命に近付いていく。天命に至るためには宿命と立命を何度も何度も繰り返さなければならない。宿命は毎回姿を変えて近付いてくる。嬉しい宿命もあるが悲しい宿命もある。嬉しい宿命も悲しい宿命もそのまま受け容れるしかない。宿命は人を選ばず近付いてくる。嬉しい宿命が悪人に近付いてくる時もあるし、悲しい宿命が善人に近付いてくる時もある。悪人なのに嬉しい宿命が続いて近付いてくる時もあるし、善人なのに悲しい宿命が近付いてくる時もある。大災害がきっかけで不幸になる善人もいるが、大災害がきっかけで幸せになる悪人もいる。どんな宿命でも素直に受け容れるしかない。
 「運命に順う時」はどんな宿命でも素直に順う時である。

 「運命に順う時」の主人公は、母一人の貧しい家庭に育ち勉強も仕事も一生懸命頑張って結果を出している母親思いの「あなた(わたし)」である。

 わたしは貧しい家庭に育った。わたしが産まれて直ぐに父が夭逝して、母が一人が働いてわたしを育ててくれた。わたしが産まれて二~三年は父の退職金で生活できたが、その後は母一人の力でわたしを大学まで行かせてくれた。母の苦労を思うとわたしは何でも頑張らないわけにはいかなかった。小さな頃から掃除や料理などできることをやって、少しでも母を助けたいと思っていた。学校に行ってからは無我夢中で勉強した。なるべく学費がかからない公立学校に進み、大学は地元にある国立大学に進学した。大学を卒業し地元の会社に就職した。苦労して一人でわたしを育ててくれた母に恩を返すために一緒に暮らして長年の疲れを癒やしてほしかったからだ。会社は残業が多く休日にも出社しなければならないほど忙しかったが、仕事は面白く一生懸命に働いた。そのため二十代半ばには係長となり三十になったら課長になった。仕事中心で母と過ごす時間はあまり作れなかったが、二十八の時に職場結婚した妻に会社を辞めてもらい母と同居してもらうことにした。三十二の時に長男が生まれ、三十五で長女が生まれた。母と家内と子供二人の幸せな家庭を築くことができた。
 仕事の方は相変わらず忙しく、三十五で部長となり四十で役員になった。会社創業以来の年少記録だという。仕事は面白かったが、厳しい時も少なくなかった。嬉しい思いをすることもあったが、悲しい経験も随分重ねた。どんな辛い環境におかれても、定められた運だと思ってやるべきことをやった。その結果、最年少で役員になれたのだと思う。以下省略。

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