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時の物語(易経短編小説集・近日中に出版予定)13

十二.閉塞逼迫する時

 次は「閉塞逼迫する時」の物語である。小は家庭から大は国家まであらゆる組織が「閉塞逼迫する時」である。組織が閉塞逼迫すれば、わたしたち一人ひとりの心も閉塞逼迫する。人間関係がギスギスするようになりあらゆる物事が上手く運ばないようになる。「閉塞逼迫する時」は誰もが不幸になる時である。
 「あなた(わたし)」が属している(小は家庭から大は国家までの)組織にも「閉塞逼迫する時」があったはずである。あるいは、これから「閉塞逼迫する時」が来るかもしれない。あなたが属する組織が常に「閉塞逼迫する時」なら、その組織はやがて崩壊する。

 「閉塞逼迫する時」の主人公は、明治時代に創業し百年以上の歴史がありながら、これまで培ってきた経営資源を蔑(ないがし)ろにし、既存事業とは関連性のほとんどない新事業を開拓してグローバル企業を目指している五代目青年社長の「あなた(わたし)」である。

 わたしは政令指定都市の中堅企業「明治旅館」の後継ぎとして生まれた。明治時代に創業した「明治旅館」は政令指定都市でありながら観光資源にも恵まれた地域に集まる富裕層をターゲットに和洋折衷のモダンで優雅な雰囲気と美味しい料理を売り物にしている。代々長男が後を継ぐことに決まっており、長男のわたしは生まれた時から「明治旅館」の後継ぎに相応しい英才教育を受けて育った。近所でも有名な豪邸で暮らし、身の回りの世話はわが家のことを知り尽くした婆や(使用人)がやってくれた。わが家の血筋には頭の良い者が多く、自分で言うの何だが、わたしもその例に漏れずに、目から鼻に抜けるような頭脳の持ち主である。要するに庶民とはかけ離れた良家のボンボンとして常に上から目線で物を観るような環境下で育ったのである。「明治旅館」の社長として寝る間も惜しんで働いている父親は、多忙でわたしと話をする時間をほとんどとれなかったので、婆やを通してわたしに「明治旅館歴代社長の心得」を伝えようと努めた。だが、婆やのことを下に見ているわたしは聞いているふりをしているだけで上の空だった。以下省略。

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