サイトアイコン わかりやすい易経・易占講座

時の物語(易経短編小説集・近日中に出版予定)12

十一.安定する時

 次は「安定する時」の物語である。小は家庭から大は国家まであらゆる組織が「安定する時」である。組織が安定すれば、わたしたち一人ひとりの心も安定する。人間関係が良好となり物事が上手く運ぶようになる。「安定する時」は誰もが幸せになれる時である。
 「あなた(わたし)」が属している(小は家庭から大は国家までの)組織にも「安定する時」があったはずである。あるいは、これから「安定する時」が来るかもしれない。あなたが属する組織が常に「安定する時」なら、それは理想的な組織である。

 「安定する時」の主人公は、江戸時代の中期に創業し三百年の歴史を誇る地方の老舗企業に勤めている「あなた(わたし)」である。

 わたしは山に囲まれた自然溢れる地方に生まれ、高校までは両親と祖父母が同居している旧家で育った。大学生の時は上京して一人暮らしも経験したが、卒業すると同時にUターンして地元に戻り、江戸中期創業で三百年の歴史を誇る老舗企業に入社した。今の社長は初代から数えて十八代目に中る。江戸時代は二百六十五年続き、最後の将軍慶喜が十五代将軍だから、それ以上に続いていることになる。企業の名前は「江戸屋」という。わたしが「江戸屋」を就職先に選んだのは、伝統を重んじ地元に密着した企業で、時代がどんなに変化しても一貫して伝統的工芸品を作り続けて地元から厚い信用を得ている企業だからである。
 わたしは一人っ子で両親と祖父母から大事に育てられた。父親も祖父も学校の教師をしており裕福ではないが浮き沈みのない安定した生活を送ってきたので、何事も変化することを嫌うところがある。良い意味でも悪い意味でも保守的な家族に育てられたので、グローバル化や株主資本主義という世の中の流れに付いて行くのが苦手だ。「江戸屋」はグローバル化や株主資本主義とは無縁な企業文化を貫いているので、わたしが勤めるとしたらここしかないと思って就職した。
 「江戸屋」の社風は「思いやり」である。「上の者は下の者を思いやり、下の者は上の者を尊敬する」を社訓とする企業文化である。社長は専務を思いやり、専務は社長を尊敬する。専務は常務を思いやり、常務は専務を尊敬する。常務は部長を思いやり、部長は常務を尊敬する。部長は課長を思いやり、課長は部長を尊敬する。課長は係長を思いやり、係長は課長を尊敬する。係長は主任を思いやり、主任は係長を尊敬する。主任は一般社員を思いやり、一般社員は主任を尊敬する。一般社員は新入社員を思いやり、新入社員は一般社員を尊敬する。新入社員は臨時社員を思いやり、臨時社員は新入社員を尊敬する。臨時社員は派遣社員を思いやり、派遣社員は臨時社員を尊敬する。三百年の歴史を経て思いやりの循環が「江戸屋」の社風として定着している。以下省略。

モバイルバージョンを終了