六十四卦を読み解く前に、まずは、「周易(易経)とは何か」をわたしなりに説明したい。すでに出版した「周易(易経)を読み解く 六十四卦・文言伝」には、「周易を完成させた孔子の思想を、その後、沢山の賢人(王(おう)弼(ひつ)、朱(しゆ)熹(き)など)が代々独自の解釈を加えながら進化させて今日まで伝わっているものを、今、易経(周易)と称している」と書いた。これも一つの説明であるが、ここでは周易(易経)には何が書いてあるのか、どのように読み取ればよいのか、という視点で説明したい。
周易の基礎は八卦にある、と著者は考えている。
八卦太極図を説明する。太極とは宇宙の根源的エネルギー(元氣)である。このエネルギー(元氣)があるから万物が存在する。太極のない状態は何もない状態である。空間も物質もない。時間もなければ感情もない。完全なる「無」である。この「無」からは何も生まれない。太極という宇宙の根源的エネルギーがなければ何も存在しない。全ては太極から始まるのである。
日本の神話「古事記」は、次のような文章で始まる。
「天(あめ)地(つち)初發(はじめ)の時、高(たか)天(あま)原(はら)に成りませる神の名(みな)は、天(あま)之(の)御(み)中(なか)主(ぬし)の神」
天(あま)之(の)御(み)中(なか)主(ぬし)の神とは太極のことである。まず太極が潜在的な宇宙空間に成りました(泉のように湧き出てきた)のである。古事記には、宇宙(高(たか)天(あま)原(はら))は天(あま)之(の)御(み)中(なか)主(ぬし)の神(すなわち太極)から始まったと書いてある。天(あま)之(の)御(み)中(なか)主(ぬし)の神は八卦太極図の太極そのものである。
太極は宇宙の根源的エネルギーだが、太極のままでは宇宙は誕生しない。太極の中に潜んでいる「陽(⚊)」なる存在と「陰(⚋)」なる存在が結合して(結ばれて)初めて宇宙が誕生するのである。「陽(⚊)」の役割は、万物を誕生させるためにシナリオを描いてエネルギーを発することである。「陰(⚋)」の役割は、万物を誕生させるために「陽(⚊)」が発するエネルギーを受け容れて(陽と陰が結合して)、「陽(⚊)」が描いたシナリオを実現すべく万物を生み出すことである。
「古事記」には、天(あま)之(の)御(み)中(なか)主(ぬし)の神に続いて、高(たか)御(み)産(む)巣(す)日(ひ)の神と神(かみ)産(む)巣(す)日(ひ)の神が成ります(湧き出てくる)が、「陽(⚊)」が高(たか)御(み)産(む)巣(す)日(ひ)の神であり、「陰(⚋)」が神(かみ)産(む)巣(す)日(ひ)の神である。「陽(⚊)」と「陰(⚋)」が結合して「大陽(⚌)」「少陰(⚍)」「少陽(⚎)」「大陰(⚏)」を生み出す。「古事記」では「少陰(⚍)」を宇(う)摩(ま)志(し)阿(あ)斯(し)訶(か)備(び)比(ひ)古(こ)遲(じ)の神と云い、「少陽(⚍)」を天(あま)之(の)常(とこ)立(たち)の神と云う。すなわち、「陽(⚊)」の高(たか)御(み)産(む)巣(す)日(ひ)の神と「陰(⚋)」の神(かみ)産(む)巣(す)日(ひ)の神が結合して(結ばれて)宇宙空間が誕生した。その宇宙空間を「乾(☰)」と云い、その宇宙空間に無数に存在する惑星を「坤(☷)」と云う。(以下省略)