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四季と易経 その三十二

立夏(二十四節氣の七節氣)

【新暦五月五日ころから九日ころまで】
 「穀雨」の次の二十四節氣は「立夏」である。
 野山には新緑が青々と萌え、徐々に夏めいてくるころ。気持ちのいい五月晴れが続き、爽やかな風が薫る季節。(絵で楽しむ)

鼃始鳴(かわずはじめてなく)(七十二候の候の十九候・立夏の初候)

【新暦四月四日ころから九日ころまで】
 意味は「蛙が鳴き始める(絵で楽しむ)」である。
 「絵で楽しむ」には次のように書いてある。
 朝晩の寒さも和らぎ、蛙がようやく泣き声を聞かせ始めるとき。(中略)蛙は必ず元の場所に帰る習性があることから「帰る」が語源に。「お金が返る」「無事に帰る」など、縁起の対象として扱われます。

 「鼃始鳴(かわずはじめてなく)」は、易経・陰陽消長卦の「澤天夬」九四に中る。次に「澤天夬」九四の文章(爻辞と小象伝)を示す。
 「澤天夬」九四の言葉は【新暦五月四日ころから九日ころまで】に当て嵌まる。

澤天夬九四(易経・陰陽消長卦)

《爻辞》
九四。臀无膚。其行次且。牽羊悔亡。聞言不信。
○九四。臀(とん)に膚(ふ)无(な)し。其(そ)の行くこと次(し)且(しよ)たり。羊を牽(ひ)けば悔(くい)亡ぶ。言(げん)を聞きて信ぜず。
 不中正(陽爻陰位)の大臣(側近)九四は、お尻の肉が薄い(どっしりと構えていることができない)ので今の地位に安んずることができない。下から衆陽(三陽爻の君子)が権力を有する佞人上六を除去しようと迫ってくるが、一緒に前進しようとしない。
 大臣(側近)という要職に在りながら情けない。聖人から「佞人上六を除去すべく前進すれば、悔はないぞ」と戒められが、その聖人の言葉を信用することができない。だから止まるでもなく進むのでもなく、右往左往するのである。

《小象伝》
象曰、其行次且、位不當也。聞言不信、聰不明也。
○象に曰く、其の行くこと次(し)且(しよ)たりとは、位(くらい)、當(あた)らざる也。言(げん)を聞きて信ぜずとは、聰くこと明かならざる也(なり)。
 小象伝は次のように言っている。不中正(陽爻陰位)の大臣(側近)九四は、下から衆陽(三陽爻の君子)が迫ってきても一緒に前進しようとしない。
 大臣(側近)の位に相応しくない小心者で志氣軟弱である。その上、聖人の言葉を聞いても信用することができない。小心者で志氣軟弱なので是非善悪を弁別することもできない。だから聖人の言葉が理解できないのである。

 「澤天夬」九四の之卦は「水天需」である。次に「水天需」の全体像を表す言葉(卦辞・彖辞、彖伝、大象伝)と「水天需」六四の言葉(爻辞、小象伝)を示す。これらの言葉は「澤天夬」の九四と同じく【新暦五月四日ころから九日ころまで】に当て嵌まる。

水天需(澤天夬九四の之卦)

《卦辞・彖辞》
需、有孚。光亨。貞吉。利渉大川。
○需(じゆ)は、孚(まこと)有り。光(おおい)に亨(とお)る。貞なれば吉。大(たい)川(せん)を渉(わた)るに利し。
 需は孚(まこと)(上卦坎の性質)が剛健(下卦乾の性質)に支えられている。孚(まこと)は光のように隅々を普(あまね)く照らし、剛健な性質と相待って何事もすらっと通る。
 需の時における正しい(慈雨が降ってくるのをゆったりと待つ)道を固く守れば幸運に巡り逢える。正しい道を固く守れば難しい事に取り組んでも宜しい。

《彖伝》
彖曰、需須也。険在前也。剛健而不陥。其義不困窮矣。需有孚、光亨、貞吉、位乎天位、以正中也。利渉大川、往有功也。
○彖に曰く、需(じゆ)は須(ま)つ也。険(けん)前に在(あ)る也。剛健にして陥(おちい)らず。其の義困(こん)窮(きゆう)せず。需は孚(まこと)有り、光(おおい)に亨(とお)る、貞なれば吉とは、天(てん)位(い)に位(くらい)するに、正(せい)中(ちゆう)を以てする也。大(たい)川(せん)を渉(わた)るに利しとは、往(ゆ)きて功(こう)有る也。
 彖伝は次のように言っている。需は自然に慈雨が降ってくるのを待つ時である。下卦乾(剛健)が前に進もうとするが、上卦坎(険難)が立ち塞がって容易に進めない。
 乾(剛健)は泰然と時が至るのを待つことができるから険難には陥らない。
 天命を素直に受け容れるから困窮することもない。孚(まこと)が剛健な性質に支えられて光のように隅々を照らしすらっと通る。正しい道(泰然と時が至るのを待つこと)を固く守れば幸運に巡り逢えるのは、九五の天子が剛健中正の德を具えているからである。
 正しい道(泰然と時が至るのを待つ)を固く守れば難しい事に取り組んでも宜しい。時が至るのを待って行動すれば、功績を上げることができる。

《大象伝》
象曰、雲上於天需。君子以飲食宴樂。
○象に曰く、雲、天に上(のぼ)るは需(じゆ)なり。君子以て飲食宴(えん)樂(らく)す。
 大象伝は次のように言っている。雲が天高く上がり慈雨が降ってくるのを待っている形が需の卦象である。君子は、この形を見習って悠(ゆう)然(ぜん)と身心を養い(休養)宴楽して(飲み食い楽しんで)、ゆったりと慈(いつく)しみの雨を待つのである。

水天需六四(雷天大壮九四の之卦・爻辞)

《爻辞》
六四。需于血。出自穴。
○六四。血に需(ま)つ。穴より出(い)づ。
 六四は険難に足を踏み入れた(下卦乾天から一歩進み上卦坎水の一番下に位置している)。険難の中で血を流しながらじっと待っている。それゆえ、「血に需(ま)つ」と言う。
 辛抱強く時が至るのをじっと待っていれば、やがて九五の天子(トップ)に助けられて、険難(穴)から脱出できる。それゆえ、「穴より出(い)づ」と言う。

《小象伝》
象曰、需于血、順以聽也。
○象に曰く、血に需(ま)つとは、順(じゆん)にして以て聽(き)く也。
 小象伝は次のように言っている。六四は険難に足を踏み入れた。険難の中で血を流しながらじっと待っているのは、天子(九五)の話(天子の命令・天命)をよく聴いて、素直に順おうと思っているからである。

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