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四季と易経 その十七

草木萠動(草木報道する)(七十二候の候の六候・雨水の末候)

【新暦二月二十九日ころから三月四日ころまで】
 意味は「草木が芽吹き始める(絵で楽しむ)」である。
 「絵で楽しむ」には次のように書いてある。
 冬枯れの野山や木々に、薄緑色の小さな息吹が現れる時季。

 「草木萠動(草木報道する)」は、易経・陰陽消長卦の「地天泰」九三に中る。次に「地天泰」九三の文章(爻辞と小象伝)を示す。
 「地天泰」九三の言葉は【新暦二月二十九日ころから三月四日ころまで】に当て嵌まる。

地天泰九三(易経・陰陽消長卦)

《爻辞》
九三。无平不陂、无往不復。艱貞无咎。勿恤其孚。于食有福。
○九三。平(たい)らかにして陂(かたむ)かざる无(な)く、往(ゆ)きて復(かえ)らざる无(な)し。艱(かん)貞(てい)なれば咎无し。恤(うれ)うる勿(なか)れ、其(そ)れ孚(まこと)あれ。食に于(おい)て福(さいわい)有り。
 九三は安泰の最盛期(下卦乾の極点・泰の折り返し地点)という危ない位置に居る。何事も安定した状態が永続することはない。鬼が外に行ったきりで帰ってこないこともない。幾久しく安泰の時が続くと錯覚して、安逸に流されてはならない。
 常に天下国家に思いを馳せ、艱難を乗り越えて正しい道を固く守れば、咎められるような過失は免れる。憂えることなく、至誠を尽くしなさい。食べること(経済活動や生活)に関しては、幸福な状態がまだまだ続くであろう。

《小象伝》
象曰、无往不復、天地際也。
○象に曰く、往(ゆ)きて復(かえ)らざる无(な)しとは、天地際(まじ)わる也。
 小象伝は次のように言っている。鬼が外に行ったきりで帰ってこないことはない(鬼は外・福は内の次は、福は外・鬼は内の状態に移行する)。陰陽消(しよう)長(ちよう)往(おう)来(らい)の常(じよう)理(り)である。

 「地天泰」九三の之卦は「地澤臨」である。次に「地澤臨」の全体像を表す言葉(卦辞・彖辞、彖伝、大象伝)と「地澤臨」の六三の言葉(爻辞、小象伝)を示す。これらの言葉は「地天泰」の九三と同じく【新暦二月二十九日ころから三月四日ころまで】に当て嵌まる。

地澤臨(地天泰九三の之卦)

《卦辞・彖辞》
臨、元亨利貞。至于八月有凶。
○臨は、元(おおい)に亨(とお)る。貞(ただ)しきに利し。八月に至りて、凶有り。
 臨は上が下に臨(のぞ)む時。権威を有する上の者が下の者に和らぎ悦び(下卦兌)柔順(上卦坤)に臨むから、何事もすらすら通る。正しい道を固く守るが宜しい。
 陽剛君子の勢いが盛んに伸びて、やがて天下泰平(二・地天泰)となるが、泰平を極めれば、小(しよう)人(じん)の勢いが増長(三・澤天夬→四・乾為天→五・天風姤→六・天山遯→七・天地否→八・風地觀と陰陽消長)する。

《彖伝》
彖曰、臨、剛浸而長、説而順、剛中而應。大亨以正。天之道也。至于八月有凶、消不久也。
○彖に曰く、臨は剛(ごう)浸(ようや)くにして長じ、説(よろこ)びて順い、剛中にして應(おう)ず。大いに亨(とお)りて以て正し。天(てん)之(の)道(みち)也(なり)。八月に至りて凶有りとは、消(しよう)すること久しからざる也(なり)。
 彖伝は次のように言っている。臨は剛(君子)が漸(ぜん)次(じ)に進んで盛んになり、権威を有する上の者が下の者に和(わ)悦(えつ)柔順の德で臨み、下の者が和悦の德で進む。剛中の九二と柔(じゆう)中(ちゆう)の六五が相応じ、六五の天子(トップ)は剛中の賢臣九二を深く信任する。それゆえ、何事もすらすら通り、正しい道を歩む。天の道に適(かな)っているのである。
 今は陽剛君子の勢いが盛んに伸びて、やがて天下泰平(地天泰)となるが、泰平を極めれば、必ず陰柔小人の勢いが増長し、やがては小人の天下(天風姤→天山遯→天地否→風地觀)となる。君子の天下が少しでも長続きするように、盛んに上り行く時である今から警戒せよと戒めているのである。

《大象伝》
象曰、澤上有地臨。君子以教思无窮、容保民无疆。
○象に曰く、澤(さわ)の上に地(ち)有るは臨なり。君子以(もつ)て教え思うこと窮(きわ)まり无(な)く、民(たみ)を容(い)れ保(やす)んずること疆(かぎ)り无(な)し。
 大象伝は次のように言っている。澤(兌)の上に大地(坤)が在るのが臨の形。君子はこの形に見習って、地下水(大地・坤の下の澤・兌)が涸(か)れないように、民(たみ)を教え導き、思いやること窮(きわ)まりなく、民を包容して安んずること限りない。

地澤臨六三(地天泰九三の之卦・爻辞)

《爻辞》
六三。甘臨。无攸利。既憂之无咎。
○六三。甘(かん)臨(りん)す。利(よろ)しき攸(ところ)无(な)し。既(すで)に之(これ)を憂(うれ)うれば咎(とが)无(な)し。
 六三は柔弱不正で才能と人德が乏しいのに邪(よこしま)な志(野心・野望)を抱いて下卦兌(だ)の最上に居る。巧(たく)みに人を悦ばせる言葉や物腰柔らかな態度(下卦兌の主爻)で下々に臨(のぞ)み、媚(こ)び諂(へつら)って人の上に立つ。それゆえ、何をやっても失敗する。
 六三が己の非を知り、憂(うれ)えて態度を改めれば、咎(とが)められることは免(まぬが)れる。

《小象伝》
象曰、甘臨、位不當也。既憂之、咎不長也。
○象に曰く、甘(かん)臨(りん)すとは、位(くらい)當(あた)らざれば也。既(すで)に之(これ)を憂(うれ)うれば、咎(とが)、長からざる也(なり)。
 小象伝は次のように言っている。佞人六三が媚(こ)び諂(へつら)って人の上に立つのは、邪(よこしま)な志(野心・野望)を抱いて下卦兌(だ)の最上に居るからである。
 六三が己の非を知り、憂(うれ)えて態度を改めれば、最初は咎められることがあっても、漸(ぜん)次(じ)に咎められることはなくなっていくであろう。

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