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抜粋「現代語訳(超意訳) 呑象高島嘉右衛門著 増補 高島易斷 上下巻 占例篇」 火山旅 二

旅 九三 |・| |・・

九三。旅焚其次。喪其童僕貞。厲。
□九三。旅(りよ)にして其(その)次(やどり)を焚(や)く。其(その)童(どう)僕(ぼく)の貞を喪(うしな)ふ。厲(あやう)し。
 滞在していた宿屋が火事で焼けた。従者からも見放され、誰も世話をしてくれない。旅の続行が危ぶまれる。
象曰、旅焚其次。亦以傷矣。以旅與下、其義喪也。
□旅(りよ)にして其(その)次(やどり)を焚(や)く。亦(また)以(すで)に傷(いた)まし。旅を以て下(しも)に與(くみ)する、其(その)義(ぎ)喪(うしな)ふ也。
 宿屋が火事。痛ましいことだ。従者に辛く当たったのだから、自業自得である。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての原文の一部。
(占)住所安寧ナラザルノ象アリ、又久イク使ヒ慣レシ手代ニ暇ヲ取ラスルカ、年來交リタル朋友ト不和ヲ生ズルカ、何レニモ親ミアル者ニ離ルルノ時トス、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)住む場所が安定しない。従者が辞めたり、朋友と不和が生じたり、これまで親しんでいた人と別れることになる。荒れがちな心を和らげて親しい人と信頼し合える人間関係を築き上げることが肝要である。
○旅商人は、損失が発生する。
○止まることを知らずに驕り高ぶって、困窮と災難を招き寄せる。驕り高ぶらないように反省しなければ危険である。
○社会的地位の高い人(貴人)から寵愛される。
○心ばかり急ぐから、事を成し難い時である。
○人使いが荒いので、忠誠を尽くす部下を失う。
○ストライキで苦しむ。 ○火災が発生する。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の原文の一部。
(占例)真言宗ノ高僧雲照律師ハ博識嚴律一宗ノ棟梁(中略)先生幸ニ一占シテ、將來ノ運氣ヲ明示シ給ハンコトヲ請フト、余乃チ謹テ之ヲ占筮シ、旅ノ第三爻ヲ得タリ、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の現代語訳。
(占例)真言宗の高僧であられる雲照律師は、厳格かつ博識で知られている。わたしは明治十八年の初夏、律師を訪問して談笑した。すると、宗門の運氣を占ってほしいと依頼された。
 そこで、慎んで筮したところ旅の三爻を得た。
 解説する前に、わたしは律師に次のように話した。
「今回の易断は、至誠を尽くして天命を授かったのである。その内容に髪の毛一本ほどの誤りもないと受け取って頂きたい」。律師が肯かれたので、次のように易斷した。
 旅は親しみが少ない時。普通の人の場合は、心配事が重なって転居することになり、しばらく住む所が定まらない。だが、出家された身上の場合は、かえって宜しき時と解釈できる。出家者は俗世間から離れて、家族とも縁を切り、六道の修行に努めることによって悟りの境地に到達することを本分とするからである。
 三爻が変ずれば下卦艮の山は坤の地となる。艮の山が砕けて、坤の地となる。一つの宗門の運氣として解釈すれば、山が変じて地となるのは、一つの宗門を統括する総本山が瓦解して、末寺と同等の序列となり、宗門としての統一性を失う。また、律師は三爻である。三爻が変じると山が地となる。すなわち律師は本山を離れて引退する。それゆえ、「旅(りよ)にして其(その)次(やどり)を焚(や)く。其(その)童(どう)僕(ぼく)の貞を喪(うしな)ふ。厲(あやう)し。滞在していた宿屋が火事で焼けた。従者からも見放され、誰も世話をしてくれない。旅の続行が危ぶまれる」と云う。「旅(りよ)にして其(その)次(やどり)を焚(や)く」とは、律師は出家した身であるが、大本山に居住して、俗務に奔走している。これは、出家の本義ではない。出家して行うべきことが行えない立場に居る。本山が瓦解して律師としての立場を離れることは、本来、出家して行うべきことを、行える立場に解放されると云うことである。それゆえ「旅(りよ)にして其(その)次(やどり)を焚(や)く」と云う。旅の最中に宿が火事になる。僧侶が寺院を離れることを喩える。「其(その)童(どう)僕(ぼく)の貞」とは、律師としての俗務から離れて、隠遁するがゆえに、宗門の柵(しがらみ)から解放されて、出家者として修行に励むことができると云うことである。「厲(あやう)し」とは、社会的立場が変わるので、大きく変じて対応しなければならないと云うことである。
 人生において禍福吉凶は捻れた縄のように紆余曲折する。律師にとっては結果的に吉を招き寄せることになる。なぜなら、旅の三爻が変ずると火地晋となるからである。
 晋の彖伝に「晋は進む也。明地の上に出(い)で、順にして大(たい)明(めい)に麗(つ)き、柔進みて上(のぼ)り行く。是(ここ)を以て康(こう)侯(こう)用(もつ)て馬を錫(たてまつ)ること藩(はん)庶(しよ)にして、晝(ちゆう)日(じつ)に三(み)たび接するなり。晋は益々進み行く時。明るい太陽(聡明な天子)が地上に出て、大地(臣民)は明德を備えた太陽(天子)に柔順に従い、柔順な六五が君(くん)位(い)に上(のぼ)り詰めた。『風地観の大臣六四が成長して、火地晋の天子六五に上り詰めた』という解釈もある。君(くん)臣(しん)一体となって、君主が馬を諸(しよ)侯(こう)に賜(たまわ)り、一日三回も礼(らい)拝(はい)するほど國(くに)は治まり、天下は平(たい)らかになる」とある。
 火地晋は、太陽が地上に輝いて、遍く大地を照らす時。律師は宗門を離れ、出家者としての本義である修行に努めて、その人德は益々磨かれる。太陽が大地を照らすように、天下国家に善德を施して大衆を導き、律師の名声はさらに広がる。政府や有識者は益々律師を尊崇するようになる。律師は宗門を離れても、多くの人が帰服するようになる。それゆえ「康(こう)侯(こう)用(もつ)て馬を錫(たてまつ)ること藩(はん)庶(しよ)にして、晝(ちゆう)日(じつ)に三(み)たび接するなり」と云う。
 以上の易断を聞いて、律師は深くお辞儀をして、静かに、そして、内心大きく感嘆されたようであった。
 その後、果たして宗門は瓦解して律師は小さな庵に隠遁された。俗務から離れてから律師の運氣は火地晋に変じた。名声は益々高くなり、人德は益々磨かれて、世の人々を教え導かれたのである。

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