損 六三 |・・ ・||
六三。三人行則損一人。一人行則得其友。
□六三。三人行けば、則(すなわ)ち一人を損す。一人行けば、則ち其の友を得(う)。
初九・九二と行動を共にしてきた「地天泰」乾の上爻が、「地天泰」坤の上爻に上り、坤の上爻が乾の上爻に下ってきた。それゆえ、六三と上九は和合一致する。
象曰、一人行、三則疑也。
□一人行くとは、三なれば則ち疑う也。
六三は上九と和合一致する。三人(初九・九二・六三と)一緒に進み行けば、疑心暗鬼が生じて和合一致できない。
以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての原文の一部。
(占)己レノ志強シト雖モ、才弱キガ故ニ、上九ノ才アル人ニ應ジテ、共ニ交孚スルノ時ナリ、又目上ノ人ノ援引ヲ得テ、立身スベシ、又甲家ニ兄弟三人ノ男アリ、・・・
以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)志は強いが、才能が足りない。才能がある上九に応じており、共に心が通じ合う。年配の人から目をかけられて身を立てる。
○男三人の兄弟と女三人の姉妹がいて、長男が長女の家に婿入りし、次女と三女が次男と三男の家に嫁入りする時。
○人と共同事業を行うにあたり、議論紛糾すれば事業は滞る。自分が口火を切れば、相手が応じて速やかに事が成る。
○多くを望めば実現しない。一つに徹すれば実現する。
以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の原文の一部。
(占例)明治二十五年四月、余北海道炭礦鐵道會社社長ノ命ヲ拜シ、將ニ赴カントス、因テ改正處分ノ如何ヲ占ヒ、筮シテ、損ノ第三爻ヲ得タリ、・・・
以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の現代語訳。
(占例)明治二十五年、北海道炭礦鉄道会社の社長に就任した際に、改革と懲罰をどうすればよいかを筮したところ損の三爻を得た。
易斷は次のような判断であった。
損は上卦の山は高く、下卦の沢は低い。上下隔絶して相通じない時。下に居る人が兌の口を開いておしゃべりするが、上に居る人は山のように頑固で動かない。上下の意思が疎通しないので、物事は停滞して、様々な弊害が現れ、損失が発生する。社長に就任したわたしは、人員削減を断行しなければならない。
北海道炭礦鉄道会社が赤字に陥ったのは、社員が役人的な発想に終始してコスト意識が欠如していたことが一つの要因である。だが、このことは、本質的な問題ではない。この会社は、北海道を開拓するために現地に赴いた男気のある役人が、職を辞して創立した。それゆえ、社員の多くは役所を退職した元役人であり、仕事における能力は優れているが、船頭多くして船山に上るという喩えのように、組織として迅速な対応ができない。これが改革を要する理由である。だが今は、下卦兌のわたしが口を開いて説得しても、上卦艮の社員は山のように頑固なので応じない。
また、会社が損失を出している中で、改革に応じない社員は、役人によく見られる前例踏襲主義なので、まず、組織の改編を行って従来のやり方を抜本的に改め、その後、人員削減に手を付けるしかない。すなわち、山と沢の氣を通じるために、社員の三分の一を解雇して、三人で行っていた仕事を二人で行うようにする。このことを「三人行けば、則ち一人を損す」と云う。
だが、以上のような改革だけでは、抜本的な解決策にはならない。社員の役人気質を改めて、商人気質を身に付けることは、一朝一夕にできることではない。そこで、商人気質を身に付けている人材を採用することが考えられるが、役人気質と商人気質は相容れないので、犬と猿を同居させることになり、組織内で派閥争いが起きかねない。
気質は心(形而上)の問題だから、一律に対処することはできない。わたしは商家に生まれ、自分なりの道を歩んで身を立て、今、社長の地位にある。わたしに人德があれば、自ずと社員を化育することができるはずである。自分を人德を磨かずして、どうして、社員に求めることができようか。わたしが社長として模範を示すしかない。このことを「一人行けば、則ち其の友を得(う)」と云う。
わたしは、以上の易斷を心に秘めて、単身北海道に赴任した。
直ちに改革を断行すべく、最初に役員を三分の一に減らしたところ、それが改革の端緒となり、改革を順調に進めることができたのである。