祖に離れ疎(そ)師(し)に付きて 戒(かい)定(じよう)恵(え)の業(ぎよう)を習え
根性は愚鈍なりと雖(いえど)も 自(おの)ずから好めば學(がく)位(い)に致る
一日に一字學びて 三百六十字
一字千金に当たる 一(いつ)点(てん)他(た)生(しよう)を助く
一日師を疎(おろそ)かにせず 況(いわん)や数年の師を乎(や)
生まれた故郷を離れて、遠くまで人生の師匠を訪ねて行き弟子入りしなさい。師匠から仏の道(持戒、禅定、智恵)を學びなさい。あなたが生まれつき愚鈍だったとしても、學ぶことを好んで修養すれば一定の境地に到達することができる。一日に一つの字を學べば、一年で三百六十の字を學ぶことができる。一つの字は千の金に該当するほど奥深い意味がある。一字一字を大事にして學べば、その効用は今生だけでなく来世にも及ぶ。一日だけの師匠でも感謝しなさい。ましてや何年も學んだ師匠は心から尊敬しなさい。
嘗(かつ)ての日本人は「天命に生きる」人生を歩んでいた。「実語教」や「童子教」など、古くから伝わる日本の教えを學んだからである。今の日本人は古くから伝わる日本の教えを學ばなくなってしまった。そろそろ、日本の教えを取り戻さないと、日本が日本でなくなってしまう。そんな思いで本書を書いた。
実語教では「天命」のことを「天地」といい、それは「父母」と「孝」、あるいは「師君」と「仕」の相互作用で成り立つ。そのことを「父母は天地の如く、師君は日月の如し。(中略)父母には朝夕に孝せよ。師君には昼夜に仕えよ」と書いてある。
童子教では「天命」のことを「仏」といい、それは「仏道を求む」と「仏道を成ず」の相互作用で成り立つ。そのことを「(前略)花を折って仏に供する輩(ともがら)は 速やかに蓮(れん)台(だい)の趺(はなぶさ)を結ぶ。上は須(すべから)く仏道を求むべし 中(なか)ばは四(し)恩(おん)を報ずべし。下(しも)は徧(あまね)く六(ろく)道(どう)に及ぶ 共に仏道を成(じよう)ずべし」と書いてある。
実語教と童子教が普及したのは、江戸時代に寺子屋のテキストとして用いられたからである。実語教は平安時代の終わり頃に成立したと言われ、明治時代になっても読まれていたという。何と千年近く子供たちのテキストとして読まれ続けてきたのだ。童子教は鎌倉時代の終わり頃に成立したと言われている。いずれにしても、長い期間にわたって子供たちは「実語教」と「童子教」を読んで人格を形成した。
今の「自分のために生きる」日本人に、是非、「実語教」と「童子教」を読んでいただき、「天命を生きる」人生を歩んでほしいと思う。

