御子の派遣
「あま」の神は、「おおくに」の神との交渉を、楽園を譲り受けることになる「ほのみみ」の神にやらせることにした。そこで、「おおくに」の神から楽園を譲り受ける理由を細かく説明してから、「ほのみみ」の神を楽園に派遣することにした。
ところが、「ほのみみ」の神は、極端に人見知りするところがある。「あま」の神から交渉を命じられた「ほのみみ」の神が、天上からそっと楽園を覗いてみたところ、沢山の人々が暮らしていた。「ほのみみ」の神は、こんなに多くの人たちが暮らしている楽園に行って、「おおくに」の神と交渉することなど自分にはできないと、「あま」の神に泣きついてきた。
困った「あま」の神は思案して、「ほのみみ」の神の次に「勾玉」から産まれてきた「ほひ」の神を派遣することにした。「ほのみみ」の神とは違って、「ほひ」の神は社交的な性格なので適任だと考えたのである。
「ほひ」の神は喜んで楽園に降りていき、「おおくに」の神と交渉した。「おおくに」の神は叔母(父「すさ」の神の姉が「あま」の神だから、「あま」の神は叔(お)母(ば)、その御子「ほひ」の神は従兄弟(いとこ))に中る「あま」の神の御子が天上から降りてきてくれたことを大変喜んで、お米を中心に楽園で採れるありとあらゆるご馳走と御(お)神(み)酒(き)を用意して、「ほひ」の神を連日もてなした。「ほひ」の神は、連日ご馳走と御(お)神(み)酒(き)を召し上がって上機嫌になり、交渉のことなどすっかり忘れてしまった。
天上で「ほひ」の神の報告を待っていた「あま」の神は、「ほひ」の神を心から信頼していたので、なかなか戻ってこなくても、何も心配せず、悠(ゆう)然(ぜん)と「ほひ」の神が戻ってくるのを待ち続けた。
ところが、「ほひ」の神は、一年経っても、三年経っても、五年経っても、十年経っても戻ってこない。そこで、天上からこっそり楽園の様子を覗いてみたところ、「ほひ」の神は楽園で連日もてなされ続けて、すっかり楽園に馴染んでしまっている。
この様子では、いつまで待っていても、「ほひ」の神は戻ってこないと覚った「あま」の神は、さて、どうしたものかと思案した。
もはや、御子を派遣して交渉させるのは諦めるしかない。「おおくに」の神との交渉を成功させるためには、強(こわ)面(もて)の雷神が相応しいだろうと考えた。そこで、楽園の自然を司る神として雷を司っている雷(らい)神(じん)の「みか」の神を楽園から天上に呼び寄せて、詳しく理由を話し、「あま」の神の代理として、楽園に派遣することにした。
雷神の「みか」の神は、「あま」の神の依頼を心から喜んで、楽園に戻り「おおくに」の神に面会して、「あま」の神のメッセージを伝えた。以下省略。