小さな神様
楽園における農業普及を終えて、一年中食べ物(お米)に困らない社会を実現した「おおくに」の神であるが、農業普及の次には、道路や住宅など生活基盤の整備を進めた。
楽園の人々は「おおくに」の神に対して、決して文句や不平不満を言わなかった。しかし、心の底から幸せそうにしている人々はいないと「おおくに」の神は感じていた。
生活基盤の整備は順調に進んでいるのに、どうして人々は幸せそうではないのだろう?なぜだろう?と、「おおくに」の神の心は晴れなかった。
ある日、「おおくに」の神が海辺の岬に佇んで、「どうして人々は幸せそうではないのだろう」「なぜだろう」と考えていると、海の彼方から小指の先くらいの小さな舟に乗った小指の爪先を切ったような小さな小さな神様がやってきた。
小さな小さな神様はとっても魅力的な神様だったので、「おおくに」の神は名前を尋ねてみた。けれども、その神様は何も答えてくれない。
お嫁さんの「すせ」の神に尋ねてみても、側近の人々に尋ねてみても、誰もその神様の名前を知らない。「おおくに」の神は、「どうして人々は幸せそうではないのか」という疑問に対する答えを、その神様は教えてくれるだろうと直感したので、どうしても、その神様の名前と素性を知りたかった。
ある日、「おおくに」の神が、その神様の名前を知っている者はいないだろうかと考えながら歩いていると、害虫の「あぁ」と禽獣の「くぅ」が、「その神様なら知ってるよ」と声をかけてくれた。「おおくに」の神は喜んで「その神の名前と素性を教えてほしい」と言うと、その神様の名前は「うぅ」の神様で、天上に居て「何か」を産み出すことが役割である「う」の神様の御子(みこ)であると教えてくれた。
「おおくに」の神は天上に昇っていき、「うぅ」の神様が楽園にやってきたことを「う」の神様に伝えたところ、「う」の神様は「たしかに、『うぅ』はわたしの子だ。わたしの手のひらに載せていたのだが、あまりにも小さいので、指の間からこぼれてしまったのだ。これも何かの縁なので、おまえの兄弟分として、楽園創りを手伝わせるので、面倒を見てやってくれ」とおっしゃった。
天上から戻ってきた「おおくに」の神は、害虫の「あぁ」と禽獣の「くぅ」が「うぅ」の神様の名前と素性を知っていたのに、自分もお嫁さんも側近の人々も知らなかったのはなぜだろうと考えてみた。その理由は「うぅ」の神様はあまりにも小さくて目立たなかったことではないだろうかと思った。以下省略。